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子供の病気

日本脳炎の予防接種について
相談者/miyu 担当相談員/上山先生(小児科医)

 日本脳炎の予防接種についてお聞きしたいのですが、長女が3才の5月に”HJ019A”を1ヶ月おきに2回、4才の6月に”HJ022D”を1回、接種しました。今年、小学4年になって「もう一度接種してください」との文書が来たのですが、接種すべきかどうか迷っています。というのも友人の子どもが3才で2回目を接種した時、数時間で蕁麻疹と高熱が出て入院しました。その時、医師に「もう受けない方がいい。受ける程、副作用が強く出る」と言われたらしいのです。それを聞いて私も怖くなりましたが、中国地方にはまだ日本脳炎になる菌を持った蚊がいるらしいし、以前 主人が入院した時、隣のベットに日本脳炎にかかった男性もいました。インフルエンザの予防接種など”接種してもあまり意味がなく、反対に接種によって脳症になる可能性もある”とか聞くと受けるのを躊躇ってしまいます。「中学生でもう一度接種すれば、一生涯免疫は続く」との事なので、せっかく今まで打ったんだから・・とも思います。接種は8月までらしいので早く決めなければと思うのですが、良い御助言をお願いします。

 担当:上山先生(小児科医)
 1935年病原体が日本で初めて分離されたことから、日本脳炎といわれます。日本脳炎は決して日本だけで流行しているわけではありませんが、日本以外で正規の定期接種の国はほとんどありません。渡り鳥による持ち込み説や感染した越冬蚊による常在説があります。ウィルスの主な媒介蚊は水田、池で発生するコガタアカイエカであり、増幅動物は家畜ではブタであり、自然界ではサギなどの野鳥です。ブタは感染しても、妊娠時に流死産を起こす以外ほとんど症状を出しません。ヒトは日本脳炎ウィルスに感染しても、数百人〜千人に1人が脳炎を発症しますが(麻疹脳炎とほぼ同程度の発症率です)、発病時にはすでに抗体が産生されるため、ヒトからヒトへは感染せず(終末宿主)、大多数は抗体産生のみを示す不顕性感染に終始します。ただし発病患者の20%が死亡、50%が後遺症を残し、30%しか完治しないという極めて重篤な疾患です。1つの国では、都市部よりその周辺、郊外が、北部より南部での発生が目立ちます。アジアモンスーン地域の発展途上国で、本疾患が拡大した原因は、経済発展と関係しています。主食である米を増産するための水田の開拓と、蛋白質食料源を獲得するための養豚業の発達です。日本で日本脳炎の流行の始まった1920年代は養豚が盛んであった時期であり、第2次世界大戦中はブタが減ったため、日本脳炎患者も一時減少しましたが、戦後ブタの飼育頭数が増えるにつれて日本脳炎が流行するようになりました。日本における年間患者数は1967年までは1000名以上、1972年以降は100名以下、1992年以降は10名以下の低流行状態が持続しています。一方、日本脳炎発生地域は、中国、東南アジア、インド大陸に及び、しばしば大流行して問題となっていますが、各地域から分離されるウィルスには大きな抗原性の変異はありません。したがって、同流行地の農村部に長期滞在したり出掛ける時は、20〜30歳台の成人でも追加接種を受けたほうが望ましいでしょう。流行期は日本や中国では夏ですが、それ以外のアジアの熱帯地域では雨季となります。
 媒介蚊のコガタアカイエカは全国に広く分布し、ブタも各地で飼育されています。厚生省の流行予測事業である屠殺ブタの血清調査結果では、ブタの新たな日本脳炎感染は特に西日本を中心に毎年流行が確認されており、関東以西では全ての県で50%以上のブタで抗体陽性であり、感染ブタは相変わらず高率であることがわかります。以上から日本では依然として日本脳炎発症の条件は揃っていることになり、今後も予防対策を続ける必要があることがわかります。1982〜1996年発症の324例の日本脳炎患者を対象とした調査では、確実に予防接種を受けたのは1%のみであり、このことは予防接種の感染予防効果を証明していると考えられます。
 日本脳炎ワクチンは、日本脳炎に感染したマウスの脳乳剤の遠心上清ををホルマリンで不活化したものを出発材料として、ウィルス粒子を精製していきますが、その工程数は多く複雑です。1935年の流行で死亡した患者脳から分離した「中山」予研株は、マウス脳成分の混入によるアレルギー性中枢神経障害発生を排除するため5回に及ぶ精製法の改善が行なわれ、純度が高められました(1954〜1989年)。1989年以降は、1949年に分離された「北京-1株」に変更になりました。「北京-1株」が「中山」株よりも抗体産生能がよかったからです。「中山」株の接種量1mlを半量の0.5mlにすることが可能となり、副反応の軽減化に成果をあげています。「中山」株で基礎免疫を受けている場合にも、「北京-1株」で追加接種することに支障はありません。精製により副反応は極めて少ないとはいえ、マウスの脳を使用しており、他の方法による製造法の開発が望まれているところです。
 予防接種による全身反応のうち、まず中枢神経系の副反応の発生状況をみてみましょう。予防接種から神経症状出現までの日数が重要です。不活化ワクチンでは接種後48時間以内、生ワクチンでは接種後4〜5日から1か月以内に副反応が出現する可能性が高いと考えられます。したがって麻疹ワクチン接種後翌日に無熱性痙攣が起きた、3種混?腑錺?船鸚楴2週間後に脳炎・髄膜炎が発症した、という場合はその因果関係は否定されることになります。生ワクチンについては、麻疹ワクチンや風疹ワクチンでは脳炎は100万人に1人、水痘ワクチンでは中枢神経系の副反応の報告はなく、ムンプスワクチンでは無菌性髄膜炎は2000人に1人、脳炎の報告はなく、ポリオワクチンではポリオ様麻痺(VAPP)は250万人に1人の発生頻度です。不活化ワクチンについては、3種混合ワクチンでは中枢神経系の副反応の報告はなく、日本脳炎ワクチンでは脳炎は100万人に1人以下、インフルエンザワクチンでは25年前ギランバレー症候群が多発したとの報告は有名ですが、以後は報告されていません。
 予防接種による全身反応のうち、中枢神経系以外の副反応として、アナフィラキシーショック発生状況をみてみましょう。麻疹、風疹では5万人に1人、日本脳炎、ポリオでは20〜30万人に1人、3種混合では60万人に1人といわれています。アナフィラキシーの前兆として、胸部不快感、言い様のない不安感、くしゃみ、空咳、口腔内の金属味、腹鳴、便意、皮膚症状(最も早く出現することが多い)、紅斑(全身発赤)、血管浮腫、皮膚掻痒感、蕁麻疹などで、呼吸器症状として、喘鳴、痙咳、胸痛、呼吸困難、消化器症状としては、腹痛、悪心、嘔吐、下痢、その他の症状として、結膜充血、分泌増加(流涙、鼻汁、流涎)、聴力・視力障害、循環器症状として、脈拍微弱、頻脈、低血圧、不整脈、心停止、神経症状として意識障害があります。アナフィラキシーショックは接種後の経過が早い時期のものほど重篤になり、接種後30分間何らの異常をみとめない場合は、その後にショックをきたす可能性は低くなります。アナフィラキシー反応を起こした場合は、次の接種を受けることはできません(接種不適当者)。またアナフィラキシー以外の反応を起こした場合には、注意して接種することができます(接種要注意者)。お友達のお子さんの場合は、蕁麻疹の発症ですから、アナフィラキシー反応を起こしたことになり、接種不適当者となり、受けない方がいいではなく、次回からは接種を受けることはできません。既述したようにかなり稀な場合と考えます。
 現在、不活化ワクチンでも生ワクチンでも予防接種直後の発熱はそう多いものではなく、接種後0日目では0.3%前後、接種後1日目では1%前後の頻度ですが、本来の因果関係は証明することは不可能であり不明です。生ワクチンではそれ以後も発熱がみとめられますが、これはワクチンウィルスの増殖に時間がかかるためです。麻疹では接種後5〜10日目に38℃程度の発熱が20%前後に、風疹では接種後10日以内を中心に1%前後に、ムンプスでは接種後14〜19日目を中心に2%前後にみとめられます。BCGでは発熱はみとめられません。
 日本脳炎などの不活化ワクチンは、かつては精製が不十分で、接種後の全身的な反応や注射部位の発赤、腫脹、痛みなどが高頻度に出現していましたが、現在使用されているものは不純物が極微量となり、接種当日の全身反応は著減しています。不活化ワクチンは感染防御に関与する抗原蛋白を精製したものです。それを接種することにより抗体産生を期待するものですので、生ワクチンと違って複数回の接種が必要です。前回副反応を認めた例に関しては、副反応を軽減するために減量接種を行うことは意味があります(それに対して生ワクチンを減量接種することは意味がありません)。また、いかに精製しようとワクチン自体が異種蛋白であるため、人体にとって異物であるということであり、ワクチン接種により局所の発赤、腫脹、硬結、疼痛などが起こる可能性がどうしても残ります。
 三種混合ワクチンや日本脳炎ワクチンの接種後の接種部位の発赤・腫脹の原因については、ワクチンに含まれる百日咳菌の線毛抗原、破傷風トキソイド、チメロサールなどに対する局所のアレルギー反応と考えられていますが、未だ原因の特定には至っていないため、接種部位の腫脹を軽減するようなワクチンは開発がされていません。硬結の原因はアジュバンドとして添加されている水酸化アルミニウムが皮下に沈着するためです。日本脳炎ワクチンでは、局所痛は20%、局所発赤は5%、局所腫脹は3%前後にみられます。
 北海道や東北の一部では、本疾患の発生がないため、接種を行わないところもあります(予防接種法第3条、第2項、3項)。接種季節では、流行地では1期初回、追加接種とも夏前(5〜6月)に受けることが予防効果をあげる意味で重要ですが、非流行地では基礎免疫をつけておくことで十分であり、通年で接種をしておけばよいでしょう。
 通常は生後6か月〜90か月(通常3歳の頃)に1〜4週間間隔で2回接種し、生後6か月〜90か月(通常その後1年をおく)に1回の追加接種をして基礎免疫の完了とします。以後2期9〜12歳(通常小学校4年生の頃)、3期14〜15歳(通常中学校2年生の頃)の計5回の接種回数が定められています。いずれも0.5mlですが、3歳未満では0.25mlです。また1期初回の接種間隔は1〜2週間隔で接種するのが最も強い抗体反応が得られますが、個人差があることから、接種間隔による効果の差は問題にならないでしょう。
 日本脳炎の接種間隔が乱れた場合の対応について説明します。初年度1回接種のみの場合で、それから1〜2年以内ならばある程度の免疫反応は残存しているため、基礎免疫からやり直す必要はありません。本年に2回連続接種、または本年1回、来年1回接種で基礎免疫の成立とします。初年度1回接種のみの場合で、それから3年以上経過した場合は抗体残存の程度に個人差が大きいため基礎免疫からやり直す必要がります。本年度に1〜4週間間隔で2回接種し、次年度に追加接種して1期3回の基礎免疫とします。1期3回と2期(小学校4年生)の接種間隔が短くなり、3年連続の接種になったとしても問題はありません(むしろ抗体の上昇がよくなります)。初年度2回接種後、追加接種していない場合は、3〜4年間は基礎免疫がされていることが多いため、3〜4年以内ならば1回追加接種して、基礎免疫の成立とします。5〜6年以上の間隔があいた場合は、基礎免疫からやり直す必要があります。本年度に1〜4週間間隔で2回接種し、次年度に追加接種して1期3回の基礎免疫とします。1期3回は終了はしたが(基礎免疫成立)、追加免疫をしていない場合は、通常5年間は予防効果を期待できます。ただし自然感染というブースターがないとすると、以後は3〜4年ごとに1回追加接種する必要があります。1回も接種していない場合は、年長児になったからといって、初回接種の副反応が強くでることはありません。小学校4年生で初めて接種する場合、1期3回を4年生と5年生で接種し、中学2年生で3期を接種すればよいでしょう。
 日本脳炎ウィルスを増殖させる感染ブタがかなりの頻度でいることと媒介蚊であるコガタアカイエカは全国に広く分布していることなどから、いつでも北海道と東北の一部を除いて日本脳炎に罹患する可能性があること、日本では1992年以降日本脳炎患者が毎年全国で2〜6人と激減状態が続いているが、アジアモンスーン地域の発展途上国では現在でも毎年数万人の発生があり、時々大流行して多数の患者と死者を出していること、日本脳炎を発症すると予後がとても悪いこと、予防接種の感染予防効果が高いこと、現在使用されている日本脳炎不活化ワクチンは不純物が極微量となり、局所の副反応はあるが全身反応は著減していること、などから通常は日本脳炎の予防接種を受けないことの理由は見当たらないように思います。またせっかく基礎免疫をつけた(3歳時に2回、4歳時に1回接種完了)のですから、以後数年毎の追加接種は受けていただいた方がよいと考えます。
 ただお話を伺っていると、かなり稀なことばかりが周囲でおこっているようです。お友達のお子さんがワクチン接種後数十万人に1人のアナフィラキシーを起こしたり、ご主人の横のベッドに現在日本で毎年数人しか発症しない日本脳炎患者がいたりと・・・・・
 最後に、インフルエンザの予防接種について大変な誤解があると思われるので、簡単に説明いたします。1962年から約30年間、学童に対する集団義務接種体制がとられ、年間約2000万人が接種をうけていました。インフルエンザ流行の拡大の場と考えられた学校における流行を阻止することにより、社会全体の流行を阻止しようという集団防衛の観点からのワクチン戦略です。しかし集団防衛効果についての十分な評価がなされないまま、長年経過していました。1987年前橋市の医師団による地道な検討で、学童に対する集団防衛効果を否定する見解が提言され、マスコミが大々的に報じる過程で、ワクチンは効かない、副作用が怖い、との世論が形成されました。その結果、ワクチン接種率が急速に低下し、国も義務接種から勧奨接種に移行させ、1994年の予防接種法改正で、定期から任意接種に変更された結果、ワクチン接種率、生産量がともに激減し、1996年にはワクチン接種者は30万人程度まで激減してしまった、という経緯があります。
 インフルエンザワクチンの有効性に関して乳幼児の有効性は学童に比べると低いようですし、またB型インフルエンザの効果を実証するデータはほとんどありません。これは流行規模が小さいこと、ワクチンの免疫原性が低く抗体価上昇が不十分なことなどによると考えられます。A型インフルエンザに対してはある程度の抗原変異があった状況下でも、抗体が広い交叉反応を示すため、2〜6歳児で50%以上の感染防止効果があります。65歳以上の高齢者に対する1回接種の有効性は、約45%の発病を阻止し、約80%の死亡を阻止します。全体的な予防効果は60〜80%(非接種者の罹患率が接種者の罹患率の2.5〜5倍)といわれています。多くの二重盲検試験、コントロールスタディから、重症化防止効果があることは確実です。しかしワクチン接種者でも気道からのウィルス検出例が少なからず見られ、完全な感染防止効果は得られておらず、集団防衛効果については評価は一定していません。またワクチンが脳症を完全に予防できるのかどうか明確ではありませんが、ワクチン接種歴がありながら脳症に罹患した例は極めて少なく、かなり有効に働いていることが推測されます。脳症に罹りたくなかったら、ワクチンが現在では最も確かな唯一の方法です。またワクチンに関連した死亡例は約2500万接種に1回で、1994年以降は100万人に1人見られていた副反応も見られなくなっているというとても優秀なワクチンなのです。
 とても失礼な言い方ですが、かなり稀なケースの情報や明らかに間違った情報を組み合わせて考え、現在の医学に対する不信感をお持ちになるのは間違っていると、敢えて申し上げたい。それほど現在の医学はあまくはありません。予防接種にしても、先人達の大変なひたむきな研究の積み重ねで成り立っているのです。医療(というより医学)に対して、まずは疑ってかかるのではなく、まずは信じて、その後に疑うなら疑うという姿勢が大切であると思います。あまりに多い間違った情報、流行、うわさ、都合のいい考え方に惑わされることなく、それらをバランスよくトータルに解析する能力がいろいろな分野で今後ますます必要になってくるものと考えます。被害を被るのは、お子さんなのですから・・・・・・・
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