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子供の病気

りんご病について
相談者/cat 担当相談員/上山先生(小児科医)

 先日4歳になる上の子が『りんご病』にかかりました。5ヶ月になる下の子には移らないのでしょうか?上の子は頬の赤身も取れ、発疹が出ています。下の子には何の症状も出ていません。

 担当:上山先生(小児科医)
 1975年Cossartらは、輸血用血液のHB抗原スクリーニング中にHBウィルスと異なり、パルボウィルスに似ている粒子を偶然発見しました。その時のサンプル番号がたまたまコード19パネルBであったことから、そのウィルスはパルボB19ウィルスと命名されました。1983年Andersonらは、同ウィルスが伝染性紅斑の原因ウィルスであることを初めて報告しました。
 ウィルス感染により終生免疫が得られ、またヒト以外の他の動物に感染することはありません。一本鎖DNAの、ヒトに病気を起こすDNAウィルスとしては最も小型(直径20〜26nm)の正20面体の球状ウィルス(parvumはラテン語で小さいという意味)でエンベロープを持っていません。感度の低いCIE法でも献血血漿の0.005%が陽性で、PCR法では0.03〜0.6%が陽性です。濃縮凝固因子製剤は3千〜1万単位の血漿がプールされ製造されるため少なくとも0.005%の確率で混入する大量のB19を含む血漿を除去することが必要です。しかしたまたま献血者がウィルス血症時であると、その血中には100〜1000億個/mlに及ぶウィルス粒子があり、ウィルス量が極めて多いこと(献血者の中には、ウィルス血症にもかかわらず無症状の感染者がいることから、1ヶ月以内に家族に伝染性紅斑を発症した者がいる場合には、献血者の問診の段階で排除する体制がとられています)、同時に投入される抗体陽性血漿の中和抗体価は高くなく完全に中和されずに残ること、ウィルス粒子が小さくフィルター除去が困難であること、エンべロープがないため非常に安定で、特に熱(80℃に72時間おいても感染性を保持する)や酸処理に抵抗性で、有機溶媒、界面活性剤などでの不活化が困難であることなどから、このウィルスの血液製剤からの除去を困難にしています。つまり血漿分画製剤には、現在でもある確率で本ウィルスが混入している可能性があるということです。後でその理由を述べさせていただきますが、血漿分画製剤を特に溶血性貧血や免疫不全・免疫不全状態の患者、妊婦に投与する場合には特に注意が必要になってきます。
 ウィルスは、通常は飛沫感染により、またその他既に述べさせていただいたように輸血や伝染性紅斑に感染した母親から経胎盤的に侵入することになります。それでは体内に侵入したウィルスは、どこでどのように増殖していくのでしょうか。ウィルスは細胞分裂の周期のS期後期の赤血球系前駆細胞に強い親和性を持っています。受容体は血液型抗原の一つであるP抗原です。稀な赤血球膜表面抗原タイプであるP1k型やp型の人はP抗原を持たないため、B19感染に対して抵抗性です。P抗原は赤血球膜のみに発現しているのではなく、赤血球系前駆細胞、巨核球、血小板、その他多くの組織に発現していますが、B19が自己複製するためには宿主細胞の活発な有糸分裂を必要とするため、B19は赤血球系前駆細胞など非常に狭い範囲の細胞を通常は増殖のターゲットにします。分裂は活発ではないけれどもP抗原を発現している細胞・臓器にB19が感染した場合は、ウィルスの複製がなくてもNS1蛋白という非構造蛋白が過剰に産生され、細胞障害をきたすと考えられています。
 健常人への感染実験では、確かに4〜8日間赤血球産生が一時停止してしまい、網状赤血球とヘモグロビンが低下してしまうのですが、通常臨床所見を呈する前に回復します。既に成熟した赤血球の寿命が健常人では120日と長いこと、赤血球の産生回転が早くないことによります。ところが、赤血球寿命が溶血のため短縮し、そのため赤血球の産生が亢進しているという状態にある溶血性貧血(遺伝性球状赤血球症、サラセミアなど)患者では、当然赤芽球の細胞分裂が活発であり、ウィルスの格好の増殖の場となり、急速な貧血の進行をもたらし(一過性無形成発作といいます)、心不全などから致命的となることがあります。1回感染すると終生免疫が得られるため、溶血性貧血などでの一過性無形成発作は通常2回目の発症はありません。
 免疫不全・免疫不全状態の患者では抗体の産生不全のため、ウィルスを排除できずB19の持続感染を起こします。最も多い臨床所見は赤芽球癆(赤血球の産生が低下し貧血になります)という疾患に陥ることです。治療はグロブリン製剤(通常は抗B19抗体を含む)の5〜10日間大量投与です。特に化学療法中の悪性腫瘍の患者さんに本ウィルスが持続感染を起こすと、化学療法による貧血との鑑別が難しいですが、本来の化学療法を中断することなく施行するためには、早期診断が必要となります。
 妊婦がB19感染症を受けると70%が無症状ですが、4〜9%が子宮内胎児死亡を起こし、流産・死産となります。妊娠前期の方が危険ですが、いつでも起こり得る可能性があり、感染から4〜6週後に生じるようです。その場合、胎児が慢性貧血(胎児は造血が盛んで、赤血球寿命が短いため、やはりウィルスの格好の増殖の場になります)になることにより、胎児水腫を起こすことがあります。外来で伝染性紅斑の児を診察した場合には、必ず母親の妊娠の有無を尋ねることにしているのはそのためです。妊娠中の場合には、産科に紹介し、産科サイドでの注意深い経過観察が必要となります。妊娠可能な女性の抗体保有率は年々低下傾向にあるのが少々気がかりです。
 さて伝染性紅斑は第5病 fifth diseaseともいわれ、顔面の発疹の形態から日本ではりんご病、英語圏ではslapped cheek disease(ピンタ病とでも訳する?)とも呼ばれています。ウィルスが感染して1週前後に血液と鼻咽腔分泌液中にウィルスが検出され(尿、糞便中には排出されません)、その1〜2日後に検査上、網状赤血球、ヘモグロビンの低下がみられ、同時期臨床症状は2〜3日間の発熱、全身倦怠感、咽頭痛、頭痛、筋肉痛などの感冒様症状がみられます。感染16〜18日目に紅斑、関節痛・関節炎が出現します。健常児の場合、赤血球寿命が120日と長く、溶血性貧血患者での骨髄のように赤血球系細胞が過形成の状態ではなく、ウィルス標的細胞が豊富でないことからウィルスは極大量には複製されないため、臨床的に貧血が見られる場合は少なくなります。関節症状は小児では10%弱ですが、成人では60〜70%と多いようです。この時期にはウィルスに対する抗体が産生され、ウィルスと抗体の免疫複合体が血管内皮などへ付着することにより、紅斑や関節炎が出現すると考えられています。
 年齢に関係なく発症しますが、4〜10歳が好発年齢です。成人は小児より不顕性感染ないし病状が不定で感染に気づかれにくいようです。極めて伝染力が強く、その感染経路は飛沫感染と手指を介した接触感染と考えられています。感染率は、集団では40%、学童クラス内60%、家庭内50〜100%です。病院内で感染者から他の患者や医療スタッフへ容易に伝播感染するため、造血障害発作の患者は、原因がわかるまでは本ウィルス感染を疑って隔離など、対処する必要が生じます。免疫保有率は、0〜4歳で10%、5歳以上で急上昇し、40〜60%となり、50歳以上で80%となります。
 以上から、下のお子さんの抗体保有率は10%未満であり、家庭内感染の確率は50〜100%であることを考えると、下のお子さんに感染する確率はかなり高くなるでしょう。ただし生後6か月ごろまではお母さんからの移行抗体がある場合があり、その場合には感染は成立しません。また 、上のお子さんが下のお子さんに感染させる時期は、特有な発疹が出現している時期ではありません。この時期にはウィルスに対する抗体ができているためです。実は感染させる時期は、発疹出現のはるか1〜2週間前の感冒様症状の時期です。この時期ではウィルスが患児の血中、喉に多量に存在していますが、この時点では医者が患児をみても伝染性紅斑とは診断できません。
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